「ナバホ社会では、地上のあらゆる存在者が造られるのに先立って、風があった。ナバホの古老によれば、地下世界には最初に風があった。風が「男」や「女」、「話す神」や「呼ぶ神」に対して、息つまり生命を授け、導きを与えていた。歌い手は、歌うことをとおして空気を変化させ、逆に歌は、大いなる自然のアニマの活動に作用を及ぼした。」
奥野克巳『モノも石も死者も生きている世界の民から人類学者が教わったこと』 (亜紀書房、2020年、29頁)
汀での舞台イベントに文化工学研究所で開発中の風力風向センサーと汀のCFD解析シミュレーションの動画を提供させて頂いた。
目に見えない風を媒介者として演奏家やダンサーがコミュニケーションをとり、即興的に一つの舞台を作り上げていく様が素晴らしかった。
最終的には風も参加しているし、観客もうちわで扇いだりして参加しており、文字通り主客混在の状態が生まれていた。
生物以外で生命活動を認識されていないもの(今のところUnknownと呼んでいる)にどうすれば主体性を認めることができるのか、参加してもらうことができるのかを模索している。
その第一フェーズとして、①どういった特性をもっているのかを言語化、数値化したり視覚化したりしているのが、今回、文化工学研究所で提供させて頂いていた環境センサーやCFDシミュレーションである。それが必要なフェーズなのか、それによる弊害がないかというあたりも未だ模索中であるが、その次のフェーズでは、②対象と交わったり対話することを想定している。それは、建築でいうと壁を建ててみたり、開口を空けてみたり、モノを置いてみたりすることで、どのような反応が返ってくるのかをじっくりと聴くことかもしれない。そしてその後に、③主客が分かれていない無分別状態における共創=Co-creationがあるのではないかと現段階では考えている。どうやったらこのフェーズまで辿り着くことができるのか、、、
ここまで考えていたが、汀での舞台を見ていると、風のような見えない対象を数値化したり見えるようにする過程とは別に、人間側が風化(気化)するという道もあるのかもしれないと思った。分け隔てて分析するのではなく、無分別な状態、状況。抽象的でまだ具体的にどうすれば良いのかは分からないが、そのあたりに何かあると感じさせてくれる舞台だった。