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2016/12/24

Open End Project

以下の文章は、pdwebが出しているメールマガジン11月号に掲載して頂いた記事。


Open End Project
相続・生産・譲渡

数年前、イタリア人の友人と話をしていて気づいたのですが、私が格好良い、美しいと感じる、彼らが身に着けている服や、持っているプロダクト、住んでいる家(別荘)の多くは、祖父母や両親から譲り受けたモノが多かったのです。さらには、それらの譲り受けたモノを、自分たちに合うようにカスタマイズして使い続けています。
例を挙げるまでもなく日本にも当然、譲り受けたものをカスタマイズして使い続けるという文化はありますが、高度経済成長以後、安価(かつ、中には性能も良い)モノが蔓延しているため、子どもや孫にモノを相続するという概念が薄れているように思います。住宅においては相続税が他国に比べて高いという理由もあります。
古いモノが良いという懐古主義的なことを言いたいわけではありませんが、モノを作る人と、買う人の頭の中に、将来相続するかもしれない第三者(必ずしも親族だけではありません)がいるかという事は、大きな違いではないでしょうか。
例えば、日本では多くの戸建住宅は相続されないため社会的寿命が2,30年しかなく、その後は(まだ使えるとしても)取り壊されてしまうため、安価な建売住宅や、個人的な趣味嗜好で家を建てる人が多いですが、ヨーロッパでは自分の財産の価値を上げるために、個人的な趣味嗜好で家を建てるような事はせず、売るときに高く売れるように(もしくは子どもや孫のため、さらには街のため)第三者のことを考えている人が多いです。
日本では買った時が一番綺麗で価値を持っており、時間が経つにつれ、価値が下がっていくという考え方が一般化しているように感じます。極端な言い方をしますと、エイジングという概念はあまり好ましくなく、メンテナンスフリーという事がメリットとなり、いつまでも綺麗な状態を保てるアンチエイジングなフェイク素材が流行しています。日本だけでなく、イタリアにおいてもプロダクトや新築の建築において同傾向にあるように感じます(もちろん安価で性能の良いものが手に入るという事実それ自体は卑下されるべき事ではなく、素晴らしい面もあると思います)。
つまり、時間に関する感覚範囲もしくは射程範囲が狭くなってきていように感じます。

私達が進めている計画に「Open End Project」というものがあります。
上述したような、第三者の視点を入れて設計・生産するという未来に向けたベクトルだけでなく、既存の物事をどう相続していくかという過去へのベクトルも含めて「時間を拡張」し、さらには設計・生産において各ジャンル(服飾デザイン、プロダクトデザイン、建築設計等)やコミュニティ(国、共同体)の垣根を超え、「空間を拡張する」というものです。
既存の素材を使うとなると、それらをコントロールするのは大変難しいですから、従来の設計のように、先に図面や絵を描いて、後からカタログで素材を決めるというような事はできません。(既存)素材や現場の性質・状況をきめ細かく読み取り、設計する必要があります。
ジャンルやコミュニティの垣根を超えることも各々固有のやり方、慣習がありますので容易ではありません。
以下、簡単な説明ですが私達が取り組んだ事例を2つ紹介します。
何れも建築の改修プロジェクトですが、新築プロジェクトにおいても「Open End Project」を計画しています。今後、建築プロジェクトにおいては、DIYだけでなく職人も含めた施工業態、生産方式を整えていくことが課題です。





賃貸ワンルームマンション改修プロジェクト、神戸市、20164月竣工
共同者:西村周治/Lusie inc.今津修平/MuFF神戸大学有志神戸芸術工科大学有志京都市立芸術大学有志

学生達が住むワンルームマンションを不動産関係者、学生とともに考え、設計・施工するというプロジェクトです。
通常、賃貸住宅では住人が変わると新しく壁紙を張り替えるなどし、新しい状態に戻します。また、住人が釘を打つなどしてカスタマイズすることは許されないケースが多いですが、この改修では、学生たちが神戸にある廃材や既存素材を利用して、住み手がカスタマイズできるような壁収納を作りました。


住宅にデフォルトで、ある種の「粗さ」が存在することで住人が手を加え易くなる、つまりは住宅にコミットし易くなると考えました。


マンション改修プロジェクト、芦屋市、20166月竣工
共同者:今津修平/MuFF、川原康弘/たかとり工務店

40年のマンション特有のプランや和室の存在、荒々しいコンクリートの躯体、既存床材、建具などを、どう相続していくかが一つの課題となりました。
そのまま相続するのではなく、例えば、和室では、サイズ(減築)や素材を変え、床の間に穴を空けるなどカスタマイズしました。改修プロジェクトにおいては解体して初めて分かる不確定要素が多く、現場や素材の状況を読み取り現場で変更、設計、決定する場面が多かったです。
従来のマンションにはない(床の間に空いた穴、キッチンと脱衣間の開口を含む)3つの抜けにより空間を拡張した解放的なプランにはなっていますが、将来における変化に対応できるよう建具を設置しています。