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2022/06/28

What is an eco-house in renovation?

 須磨で改修をした長屋を環境工学的視点から改修前と後で相対的に比較してリノベーションにおけるエコハウスとは何かを考えてみます。
 省エネ法の基準を絶対値としたものではなく、予算等の制限の中でどこまで省エネ性能を向上させるのかという相対的な考え方を取り入れて改修を行った事例です。



 築43年の木造2階建て長屋を外構を含め改修するプロジェクトであり、既存塀を撤去することで敷地を街に開き、地域の人も使えるような縁側をつくりました。さらに1階の開口を改修し開放的にすることで、1階を住宅以外の用途にも積極的に使え、高齢化した住居地域に若者が流入し、彼らの暮らしが路地を介して地域社会と結びつくような新しい長屋のモデルをつくりました。




風通し

 路地に面した塀を取り払うことで、当然ですが1階の風通しが格段に良くなります。既存塀を取り払うだけではなく、開口部を3枚引きにすることで開口率を上げ、間仕切り壁を無くし、4枚の框戸でキッチンにも改修できる(床下に給排水を立ち上げています)部屋と仕切ることで、風通りを確保しています。これにより自然換気による換気効率も上がり、体感温度も下げることができます。省エネの数値上では、冷房負荷が下がるため、冷房期のエネルギー消費量を減らすことができます。

改修前



改修後


 改修前は塀の後ろで剥離渦が生まれ、うまく室内へも風が入っていないことがシミュレーション結果を断面で見ることで分かります。

改修前


改修後


改修前
改修後


 自然の風通しが良くなることで人の風通しも良くなると考えています。賃貸物件ですので、どういう人がどういう使い方をするかに依りますが、1階廻りを居住専用住宅と違ったつくりにし、街に開くことでネイバーフッド(土地に根ざした人の繋がり)にも良い影響が生まれれば良いと考えています。

外皮性能

 耐震補強と外皮性能の向上は、築40年を超えるクラスの住宅の改修における大きな課題だと思います。それに加えコストの問題もあるので、外断熱にして工種を増やすのも厳しい場合が多いです。今回は、基礎補強や筋交い等での耐力壁増設に加え、室内側は石膏ボードも耐力壁として設計しているので、断熱材をさらに内側に施工する事はしていません。床と屋根には断熱を施し、窓をアルミサッシ(単板ガラス)からアルミ樹脂複合サッシ(ぺガラス)へ改修しているので、外皮性能は上がっていまが、改修後のUA値1.35は今の基準でいうと高い性能ではないです。
 限られた予算とスペースを有効利用するという、様々な要望から考えると十分な改修だったのではないかと考えます。








ダイレクトゲイン

1階の床の一部を土間コンクリートとすることで、室外空間との連続性をつくり、使い方としても半外部的に使えるようにしました。さらに冬場は、床のコンクリートに昼間の太陽の輻射熱を蓄熱させて暖房負荷を下げるということも考えました。

輻射熱の分布


床に蓄熱された輻射熱の流れ




自然採光

改修前

改修後



 上の図は春分、秋分の12時における照度をシミュレーションしたものです。大きな変化はないですが、南側、西側の窓を大きくしたところと、駐車場の屋根を外した部分、間仕切をなくした箇所は照度の向上が見られます。

煙突効果による自然換気

 2階の天井を外しているため空間は広くなり解放感をつくっていますが、夏場や中間期に高い所で暖かい空気がたまらないように、煙突効果により効率よく換気できる特殊な換気口であるグッドマン換気口を各棟につけています。ちなみにこの換気口は、友人の父親で環境工学を大学で教えていた方が企業と共同開発したもので、室外からの新鮮な空気の給気も同時に可能な物で、換気口ダンパーの部分で熱交換できるようにも設計されています。




グッドマン換気口、サイトより


まとめ

 まず築43年の建物を取り壊すのではなく改修して使うという取り組み自体が省エネということができると思います。それに加え、余分なものを付け足すのではなく、使えるものは使い経年変化した素材を良しとして扱うという設計の方向性も数値化はしずらいですが、省エネだと思っています。
 各論として今回の改修でやったことを環境工学の視点から書きましたが、これらはバラバラに考えられたことではなく、設計段階では都市的な視点や、コストや意匠的なことも含め、同時に検討しています。重力、風、熱のような目に見えないものも含め、いろんな要素がもつ言葉をシミュレーション等を通して翻訳し、それらを一つの建築として統合されたものに出来れば良いと考えています。

2022/06/05

COCCAという共創する界隈

依頼を受けて兵庫建築士事務所協会の会誌「くすのき」 148号のために書いた文章です。


 昨年11月のパネルディスカッション「設計事務所のアタラシイカタチ2020」にてCOCCA(コッカ)について、建築プロジェクトを中心に話をしましたが、今回は建築プロジェクト以外のCOCCAの活動を中心に、地域との関わりを紹介させて頂きます。

1. 界隈としてのCOCCA

 COCCAは、組織名やグループ名のような”人間の集団”ではなく、プラットフォームとして考えており、そこに様々な人が出入りしながら共創しているという説明をパネルディスカッションでしましたが、この一年でCOCCAの捉え方が少しずつ変わってきました。
 現在は、当時否定していた”人間の集団”に戻りつつあります。戻ったというのは、結成当初COCCAは、主に東京、大阪、兵庫、広島にいる仲間と一緒につくった”人間の集団”だったからです。 ただし、今考えている”人間の集団”は、通常の組織よりも常に形や関係が変わる流動的な集団として考えており、その様を表現する言葉として”界隈”という言葉が相応しいのではないかと考えています。界隈とは物理的に限定された地区のことではなく、人が集まることで、その時その場に生まれる一時的な領域と考えています。その境界は曖昧で、個々人によって捉え方も様々なので、皆が同じイメージをもっているとは限りません。
 COCCA(コッカ)という名前は括弧(カッコ)からきています。そのカッコを、人間、空間、時間を区切る境界として捉え、それらを開いて繋げる”共創する界隈”がCOCCAだと考えています。
(括弧という境界が連続して繋がっていき、「カッコ カッコ カッコ カッコ」と言っていると「コッカ」に聞えます。)
 COCCAはプロジェクトにおける対象(object)のカッコを開いて繋げるだけでなく、COCCA自体(subject)のカッコが開いて繋がったり離れたりしているのです。
 繰り返しになりますが、COCCAは特定の人が常に所属するグループではなく、時と場合によって、関わる人が様々に変わります。そこでは世代や職種、国籍のカッコは無く、1つの界隈となり共創しています。
 今書いているこの文章も、クラウド上で複数人が同時に編集できるドキュメント作成ツールを使い共創しながら書いたもので、同時に編集や提案がされており、最終的には、どこを誰が書いたものなのか分からなくなるくらい混然一体となっています。
 

 2. COCCA Ninomiya

-物理的境界が開き生まれる界隈-

 2018年に、神戸で活動しているメンバーで二宮にシェアオフィスをつくりました。1階は普段打合せスペースやイベントスペースとして活用し、2,3階はシェアオフィスとして使っています。コロナ禍では不特定多数の人が集まるイベントスペースとしての活用は難しくなりましたが、昔子どもが遊んでいた路地のように日常的に使える場にしようと、本やCD、レコード等のメディアを置いて、開放する試みをしています。
 ある時は普段2,3階で行うデスクワークを1階で行いました。道路レベルにある3枚引き戸をオープンにし、内と外との境界線を無くして仕事をしたので1階の内部空間が外の路地の拡張スペースのようになりました。そうすると通行人から内部空間が認知され、普段は黙々と図面を書き、会話もプロジェクトの話が多かったのですが、近隣の人がふらっと雑談をしに来て、その中で仕事の依頼を受けることもありました。建物の物理的な境界を開き、近隣の人とコミュニケーションを取ったことにより思いもよらない所からプロジェクトが生まれました。

COCCA Ninomiya 1階の建具を開放した時の様子

COCCA f

 COCCAではプロジェクトベースで、ある目的のために、その時々のチームができるだけではなく、無目的(遊ぶ感覚)に集まれるような機会も設けています。それは面白い(複数の価値を持つ)プロジェクトが生まれていくための土壌づくりでもあります。毎月COCCA Ninomiya1階で行っているCOCCA f(fermentation 発酵、function 関数のf)という討論会では毎回学生や社会人がプレゼンターとして一人発表し、その人が投げかけた問いを参加者全員で討論しながら発酵させています。質問に答えを出すことが目的ではなく、対話しながら考えるというプロセスに意味があると考えています。
 毎回発表されるジャンルもバラバラで新しい参加者もいるため思わぬ出会いがあり、そこから共創界隈が拡がっているのではないかと思います。

COCCAfの様子


3. 多世代多業種型プロジェクト

COCCA Lab.

 また、COCCA Lab.という研究会も行っており、日常の学校の課題や会社の業務とは違う、基礎研究的なテーマを各々が持ち寄り、それをクラウド上で論文のようなものを書いています。その論文に他の参加メンバーが質問を投げたり、情報を付加したりしています。つまり皆がコメントを付けたり編集したりできるCOCCA的な共創研究です。
毎月、オフラインでも発表会を行い、直接意見のやり取りもしています。今は大人のみですが、将来は小学生等のより若い世代も入ってきて、世代を超えた共創研究をしたいと考えています。

COCCA Lab. 発表会の様子

混沌玩具

 多世代多業種で行っているプロジェクトの一つに混沌玩具(konton-gangu.com)というものがあります。「ふたしかなものと遊ぶ」をコンセプトに、子どもから大人までが一緒に、不確かな要素が入った玩具で遊ぶことを促すものです。
 この開発には、2歳児から60代後半の人までが関わっており、職種もプロダクトデザイナー、機械エンジニア、クリエイティブディレクターと様々です。製作過程において、いろいろな人に実験的に使って頂くのはもちろんですが、本プロジェクトにおいては構想から製作、製作後までも、いろいろな世代や職種の人たちと共創していきます。その製作プロセス自体が混沌玩具なのです。

混沌玩具会議の様子


Tonariノhero

このブランドは「世の中には当たり前に世の中を支えている人やモノがある」という点に着目し、「You’re my hero」というコンセプトでCOCCAメンバーのプロダクトデザイナーと立ち上げました。
異業種とコラボレーションすることにより、当たり前の感覚への違和感や新たな発見が生まれます。その中で議論を重ね商品を開発しています。
販売はCOCCANinomiyaの1階でポップアップショップを開いています。
多様な人に触れてもらうため、他のブランドと共同で販売を行ったり、知り合いの飲食店に出店してもらうことで、様々な人々に周知してもらうことができて、界隈が拡がりました。認知されていくにつれ出店希望者も増え、各々の出店者の界隈が連鎖していきます。

ポップアップショップの様子


4. COCCAという共創界隈の拡張

CBS Bubble

 バーの経営者からの依頼で、コロナ渦で客足が遠のくなか、他事業であるランドリーを掛け合わせた新しいお店をつくるというプロジェクトです。 
 左官職人や建築士、大工など、普段COCCAという界隈に関わりを持っていない人とチームを組むことで、共創界隈の拡張を考えています。関わったすべての人が「自分がやった」といえるような空間づくりをしています。
 そうすることで空間により愛着が沸き、その空間に関わった人が知人を招きたくなり、お店にとっても顧客ネットワークが増えることに繋がります。COCCAが連鎖し、縦割りの仕事ではなく垣根を超えた仕事になりました。

チームで施工している様子


汀(みぎわ)

 COCCAメンバーの一人であるクリエイティブディレクターの濱部玲美さんが2021年11月に北野坂沿いの1階に汀(snack-migiwa.com)という店をオープンしました。アートと食を軸にし、子どもから大人まで混ざり合って楽しめる風変わりな場所です。
 設計者としてハード面に関わりましたが、そこで行われるアートイベント等のソフトにも運営者、参加者として携わっています。また界隈で知り合ったアーティストが、ここでアート教室をします。

汀レセプションパーティの様子

IMAYAMA

 COCCAメンバーの一人である建築家の今津修平さんが神戸市北区に里づくり拠点IMAYAMAをつくりました。
 次の世代に荒れた広大な山林や田畑を残すのではなく、子どもたちと一緒に考え計画し土地を整備していくことで、そこが彼らのフィールドになっていくことを目指しています。
 そこではワークショップ的にフィールドづくりを行っており、子どもから大人まで多種多様な人が集まります。料理人が昼食の準備をする傍ら、大工や庭師が井戸を整備したり、子どもと達に道具の使い方を教えながら、山を整備しています。そこでは、仕事として山を整備しているのではなく、自主的に遊びながらフィールドづくりに関わっているような状況が生まれています。

IMAYAMAの活動風景

COCCAの連鎖

 ひとりの人間が作っていくトップダウン型の組織や社会ではなく、界隈が共創しながら変容するボトムアップ型の組織や社会を形成していくことが、公益に繋がる多様性のある地域づくりになると考えます。 
 どのプロジェクトでも共通しているのは、世代や業種、立場を超えて人々が繋がるということです。個人がもっている思考や技術が、年齢の上下を問わず連鎖し継承されています。
 伊勢神宮は20年に一度、式年遷宮が行われることにより、伝統技術を千年以上も途切れさせず継承し、素材は変わっても存在を永らえています。それと同じように界隈や地域を一つの生命体として考えた時、COCCAにおいて個人の思考や技術が連鎖し継承されていくことが、持続可能な組織や社会を形成していく一つの手段ではないかと考えています。