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2022/04/27

空き家の活用から地域をつくる

Y’s house 権現町 / 大和船舶土地株式会社










https://www.city.kobe.lg.jp/a01110/kurashi/sumai/20220415sinpojiumu.html

 神戸市建築住宅局主催の空き家活用シンポジウムでコーディネーターをするという機会より考えたことを記す。

2つのフック

 このシンポジウムの内容を関係者たちと議論していく中で以下2つのことを今回のフックとすることになった。
①敷地境界を越えて地域にどのような影響を及ぼすか。
②空き家活用に関わる各々の職業人(プロフェッショナル)が各専門性を越えてコラボレーションするか。

①に関しては多くを説明する必要はないかもしれないが、特に日本の住宅街においては各々の専用住宅が敷地境界に塀を建てて内側に閉じた建ち方となっていることによる相互関係の無さに対する問題提起でもある。さらに近年コロナの影響もあり土地に根ざした人の繋がり(=ネイバーフッド)が世界的に見直され、如何に現代人が孤立化していたかということが浮き彫りになっており、前述の問題を抱えた空き家の改修、活用はネイバーフッド再生の一つの契機にもなりうると考えた。

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②は、働き方の問題であり、各々の専門性に閉じこもっていることで多分野の人との対話を難しくし、さらには対話を通じた有機的なコラボレーションが生まれにくく、そのことが、不動産業界と建築業界、さらには運営者との溝となり、空き家活用の一つの足かせにもなっているという問題提起でもある。
これは以前COCCAfでも話したことがある竿型(専門特化型)コラボレーションと山型(越境型)コラボレーションとの違いでもある。











 多くの人が指摘しているが、いろんな問題が重層化し複雑化した現代において必要とされる人材は多分野で高度な知恵と技術をもった越境型の人材であり、リンダ・グラットン氏がいうところの「連続スペシャリスト」である。私の考え方では、一つの専門性を高めるにしても、腹筋や背筋のように効いてくる他分野の専門性も必要になってくる。
今回のシンポジウムにおいても、各々の登壇者は肩書の職業の枠に収まらない働き方をしており、それが故に各業界で新しいことを成し遂げていると感じた。

 職業の専門性に縛られず横断的に職能の枠を越境している方々に登壇して頂きシンポジウムの後半では、不動産投資家、建築家、運営者、行政による立場の違う人たちのクロストークを行った。

ボトムアップ型の再生

 神戸市においても空家空地活用担当は都市局にあったが、なかなか進まないため建築住宅局に変わり、すまいの総合窓口とし「すまいるネット」を設立し個人にアプローチするようになったそうだ。空き家活用というのは基本的には土地区画整理事業や再開発のようなトップダウン型の街づくりとは違ったボトムアップ型の街づくりだと思うが、それだけでは十分ではないかもしれない。少子高齢化し縮小化していく日本において、全ての空き家が再生され活用されるべきかというとそうでもないと思うからである。


 コンパクトシティ政策との連動も今後重要になっていくと思われる。立地適正化計画で設定された居住誘導地域の空き家活用は進めていくべきだが、それ以外は解体し、日本全体として広がり過ぎた居住地域をソフトランディングしていく必要があると考える。こういうと、田舎を切り捨てるのかという反論を受けるが、私がコンパクトにすべきだと考えているのは高度経済成長期以降の多大な住宅需要によってスプロール化していった都市部のことであって、田舎を切り捨てる事ではない。むしろヨーロッパのように都市をコンパクトにすることで田舎との差異がより大きくなり、相互の有用性がより生まれると考えている。


大体同じスケールでの阪神エリアとミラノの比較


共助、ケア
 シンポジウムでのおせっかい不動産の高橋大輔さんの話で「住宅弱者」の話が印象的でだった。住宅弱者とは、外国籍や高齢者、同性カップル、障がい者、シングルペアレントなど、実際の経済状況だけでなく社会的なイメージによって、入居審査を受ける際に不利になってしまう人のことをいうそうだ。空き家が日本中で800万戸以上、住宅の14%程を占めるにも関わらず、住宅弱者が多数存在する。
 高橋さんは単に住宅弱者と呼ばれている人達に不動産仲介をするだけでなく、街に余っていてご自身でストックしている家具や家電を無料で提供している。また、介護施設であるはっぴーの家の不動産事業部でもあるため、訪問介護等のサービスもつけている。そういった人たちにとって、お金をかけてお洒落にしたような空き家は必要ではないという話もあった。家賃収入だけに頼る賃貸住宅の経営も多角化すべきだという。ハードの話だけで空き家活用を捉えがちだが、ソフトの重要性を痛感した。
 前述したように住宅街において専用住宅が多く各々の住宅が高い塀で閉ざされ敷地が孤立しているように、そこに住む人々も孤立していった。それによって土地に根ざした人の繋がり(=ネイバーフッド)がなくなり、今まであった共助(地域の人がお互い助け合う関係)が、セルフケア(自助)もしくいは行政の公助に取って代わってしまった。空き家活用によってネイバーフッドを再生することはハードの問題だけでなく、共助、ケアに関わるソフトの問題でもある。これは慈善的そう思うとうよりも、生存戦略でもあり、どうやって強い地域をつくるかという問題でもあると思う。自分もいつか老い自助や公助だけでは生きていけなくなる時がくる。その時に生きていける街が必要なんじゃないか。